
借りる。貸主に所有権あるいはそれに類する権利がある物品を、第三者に一時的に、時には貸主の意に反して恒久的に、所有権を譲渡することなく使用等させることをいう。猫を借りるとは文字通り、よそ様で飼っている猫を借りること。
何のために?レンタネコなんて映画もあったように、今日では、いわゆるヒトの癒しが目的なんだろう。しかしかつては、癒しなんてヌルい目的だけではなかったようだ。何かといえばそれは、おそらくはるか昔、我々ヒトの祖先がイエネコの祖先と邂逅したときに「おお?」と思ったであろう、猫にとっては本能的であってヒトにとっては伝統的な、そう、ネズミ駆除のため。老猫が武術の心得を説く「猫の妙術」ではそもそも、ネズミ対策のために猫を借りるなんて設定が前提だったりする。
では借りてきた猫が「猫の妙術」のように積極的にネズミを捕りに行ったかといえば、中にはそういう輩もいたかもしれないが、ほとんどは隅っこのほうで大人しくしていたに違いない。引きっとったばかりの猫や、引っ越して新しい家に来たばかりの猫を観察していると、だいたいそんなもんだったろうというのは想像がつく。なにせ「借りてきた猫のような」という表現があるくらいだ。これは、普段は賑々しい人が、ある状況や場所にいる際に大人しくなるさまをいう。

ほとんどのネコにとっても、よそに貸し出されるのはメイワクだったに違いない。ネコは基本的に慎重だ。野生の本能を強く残しているものは特に。それも当然。ライオンなどの一部を除き、ほとんどの野生のネコ科の動物は単独で生活する。頼るはおのれの身ひとつなのに、無茶ばかりしていたらあっという間にオダブツだ。だから、コンフォートゾーンである自分の縄張りから強制的に外に連れ出されたら、身を守る防御モードになりがちになる。
しかし、である。じっとしているだけだからネズミ退治に役立たないかというと、さにあらず。猫がいる家は、不思議とネズミが出なくなるという。その理由は、におい。
実験によると、猫の匂いに曝露されたネズミは恐怖反応を起こし、87%以上の時間を箱の中に隠れて過ごすという。対し、猫の匂いに曝露されないネズミが箱に隠れる時間は20%未満だ。何がネズミにこんな反応を起こさせるのかはわかっている。トリメチルチアゾリンという化学物質だ。そして、この反応は慣れるわけではないようで、7日間の試験でも恐怖行動に変化はなかったという。まさしく、ネズミにとって猫は天敵なのだ。

とはいえ、ネズミを捕食するのはとうぜん猫だけではない。先にでたトリメチルチアゾリンは、キツネからも抽出できるという。北海道でもなければキツネ確保の手間がかかるせいか猫より論文の数は減るが、やはり同じ成分があるだけに、キツネの尿は野鼠よけに販売もされている。
ネズミ相手に八面六臂の活躍を期待して猫を借りてきた人は、部屋の端や棚の下でうずくまるだけの猫にイライラしたであろう。しかし実際はどうだ。猫がそこにいる、ただそれだけで十分なのだ。役に立つ立たないなんてきっと、ごく狭いところだけみた主観的な判断でしかないのだろう。
Reference
- 天狗芸術論・猫の妙術 佚斎樗山(著)石井邦夫(訳) 講談社
- https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0149763405000588
- https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0306452201001506
- https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201102216290107604
- https://www.pref.ishikawa.lg.jp/hakusan/publish/report/documents/report13-4.pdf
First posted date : October 16,2023