ペンタメローネ

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17世紀にバジーレによって書かれたもので、ヨーロッパで最古の昔話集といわれるそうな。かの地の昔話編集者としてはペローやグリム兄弟、アンデルセンが真っ先にでてくるが、彼らより先行していたこの本が長らく日の目を見なかったのは、イタリア語の中でも特殊らしいナポリ方言で書かれたから。マイナー言語のハンディキャップたるや、当時は今以上だったのでしょう。

バジーレは、3世紀前のボッカチオの「デカメロン」に影響されてペンタメローネを書いたとか。スタイルもデカメロンと同じ、物語のなかでほかの物語が語られる「枠物語」と言われるもの。が、デカメロンで語られるのは主にボッカチオの創作であるのに対し、ペンタメローネで語られるのは、あくまでバジーレが再話した昔話。その意味では、デカメロンよりも「千一夜物語」のほうが近そう。

ペンタメローネには、10話/日×5日分、つまり50話が収められているのだが、そのなかで、ネコがメインなのは2日目第4話の「ガリューゾ」だけ。ちなみに、影響されたというデカメロンではゼロ。3世紀の間で変化したイタリアにおける猫の位置づけが、そこはかとなくうかがわれなくもない。

さて、ストーリーであるが、「ガリューゾ」というのは貧しい兄弟の弟のほうの名前。親から遺産として猫をもらったガリューゾは「自分一人の食事もままならないのに猫なんて」と愚痴るが、その猫が知恵を働かせて彼を裕福にしたうえに王女と結婚させてしまうというもの。

どこかで聞いたことある。そう、ペローの「長靴をはいた猫」とそっくり。王女と結婚する経緯も、笑ってしまうくらいほぼ同じ。ただし、猫に長靴をはかせてビジュアル面を強化したのはペローの貢献とか。また、ペローの猫は、最後は貴族に取り立てられて報われるのだが、バジーレの猫は、恩知らずなガリューゾに愛想を尽かせて出て行ってしまうというオチがついている。ペローはバジーレよりも時代が下っているので、昔話のもつ本質的な荒々しさが、いろいろな意味でソフト化されたということか。

ブーツやらなにやらの小物がなかったら、こんなにもキャッチーだっただろうか By GERMAN SUAREZ/Source: pixabay

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*追記 その後「ヨーロッパで最古の昔話集」のタイトルが、ほかにもあると判明。例えばストラパローラの「愉しき夜」、原文は”Le piacevoli notti”。そのうち「我こそは」というものが、ほかにも出てくるのでしょうか。


Reference

  • 「ペンタメローネ」ちくま文庫 ジャンバティスタ バジーレ著 杉山洋子、三宅忠明 訳

First posted date : December 15,2022

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